11 ギルド遠征へ

Mission11 ギルド遠征へ


 ツノ山――文字通り、鋭くとがった頂上が特徴的な山。
ウィンズのメンバーの1匹、グレアは、今日はこの山道を歩いていた。
しかし、彼のかたわらにいるのは、リーダーのレイをはじめとする彼の仲間達ではない。
グレアの前を歩きながら陽気に大声を上げているのは、ドゴームのデシベル。
その後ろを表情ひとつ変えずについていく、グレッグルのデリック。
この2匹は、トレジャーギルドのメンバーである。

 ウィンズとトレジャーギルドの面々は、
ポケモン広場から遠く離れた霧の湖へ向けて進行していた。
途中まではグループ別行動ということになり、
どうせならということで、いつもと違うメンバーでの探検となっていた。
「おい、お前ら元気出せよ!」
先頭を行くデシベルが、大声を張り上げる。
その一方、デリックは無表情なだけでなく無口だった。ただ黙々と山道を歩いていく。
しかし……
「正直言って俺は眠いぜ……」
ウィンズで一番の体力の持ち主であるグレアだが、疲れた表情をしていた。
「おい!シャキっとしろおおっ!!!」
疲れているグレアには構わず、デシベルはまたも叫ぶ。
「そんなんで大丈夫なのかよ!まだ先は長いぜ!」
元気いっぱいのデシベルを見て、グレアはため息をついていた。
「だってよ……あれはないだろ……」

 その日の早朝のこと。
ポケモン広場の郊外、静かな場所に建つウィンズの基地に
突然、とてつもない爆音が鳴り響いたのだった。
「起きろおおおおおおお!!!!朝だぞおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!」
――ぐわわわぁぁぁーーーーーーん!!!
熟睡していたグレアは、この1発で否応なしに目が覚めた。
いや、目が覚めただけならまだいい。
あまりの大声が耳に響いてしまった。
「な……なんてバカでかい声なんだ……」
根性で部屋から出てみると、
「いつまで寝てンだよーーーーーーっ!!!早く起きろおおおーーーーーー!!!!」
――ぐおおおおぉぉ……。
頭の中で、キーンという音がした。
隣には、這いながら自室から出てきたレイ。
ほとんど動かないイオン。
ロットに至っては、部屋の中で目を回している。
それに気づいたルナが、足元をふらつかせながらロットの部屋に入っていった。
まだはっきりしない意識の中、グレアは2階の窓から外を見る。
入口の前で、1匹のドゴームが怒鳴り散らしていた。
彼があの爆音の主だった。
「寝ぼけてンじゃねええええーーーーーー!!!」
またしても爆音がとどろいた。
耳が割れそうだ。
「このオレ、デシベルがお前らを起こしにきてやったんだぞ!
 お前らが集合に遅れないようによ!!」
デシベルは大声で話を続ける。
「お前らのせいでフォリス親方の機嫌が悪くなったら、オレらとしてもヤバいんだよ!!
もし……親方の逆鱗に触れた日にゃ……
 あの親方の……たあーーーーーーーーーーーーっ!!!!……をくらった日にゃ……」
そう叫ぶデシベルの顔には、いつしか玉の汗が浮かんでいた。
「ああ、考えただけでも恐ろしい!!」
突然、デシベルの表情が硬直した。何かを思い出してしまったらしい。
「う……う……うわあああぁぁぁぁっ!!!」
恐慌をきたしているではないか。
ウィンズのメンバー達も、親方の怖い噂は聞いている。
一瞬のうちに背筋が凍りついた。
「とにかく!早く準備して集合場所に来い!!」
そう叫んで、デシベルは戻っていった。

 デシベルの大声を聞く度に、グレアは今朝のことを思い出して
頭が痛くなりそうだった。
「ギルドでは毎朝オレが皆を起こして回ってるんだぜ!」
清々しい表情で語るデシベル。
この仕事に誇りを持ってるんだな、とグレアは思った。
しかし、その一方でデリックは無表情と無口を貫いている。
「なあ、霧の湖には何があるんだろうな?」
とりあえず話題を振るグレア。しかしデリックの表情は変わらない。
グレアは、デリックの表情を注視してみる。
微妙にだが、口元に笑みを浮かべた。
「グヘヘヘヘ」
笑っている。あやしく笑っている。
グレアは、彼と話すことをあきらめた。
前を向いて、目の前の山道を歩いていく。
まだまだ先は長い。


 海沿いの崖の上を歩くポケモン3匹。
ウィンズのイオンと、ギルドのヒーリン、マルグだ。
「息子を助けていただいたイオンさんとご一緒できるとは、光栄ですな!」
意気揚揚と進んでいくマルグ。彼の進んだ道には、盛り上がった土が残る。
その後ろにいるイオンの横を歩くヒーリンは、笑顔を絶やさない。
太陽が高く輝く晴天。この天気のおかげで機嫌がよさそうだ。

 そんな彼らは、海を見下ろす岬にやってきた。
「きゃーですわー!海ですわー!!」
岬の真下では、岩壁に寄せては返す波が立っていた。
行き先には、沿岸の岩場と呼ばれる洞窟が続いている。
彼らはここを通って、濃霧の森まで行く計画を立てていた。
マルグは岬の上に立った。
そして、声の限りに叫んだ。
「海よっ!私達はこれから旅に出る!」
「私達は、この旅によって大きく成長するだろう!」
「海よっ!その広い心で!」
「どうか私達を見守っていてくれ!」
ダグトリオは三位一体のポケモン。それぞれがかわるがわる叫ぶ。
「海よっ!」
「海よっ!」
「海よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
水平線まで響くかのような叫びだった。
困惑するイオンに、ヒーリンが説明する。
「マルグは海が大好きなんですわ。いつも海に来ては、いろいろ叫んでいますわ」
そう話すヒーリンは、もう慣れたという表情だった。
叫びたいことを叫んで満足したマルグ、そしてイオンとヒーリンは
沿岸の岩場へと入っていった。


 ところ変わって、こちらは岩壁輝く美しい洞窟。
群青の洞窟という場所だ。
ウィンズのリーダー・レイは、いつもの仲間達ではなく
ギルドのメンバーであるミティとファスを連れて、この洞窟を訪れていた。
「うひゃあ……きれいな洞窟でゲス……」
ファスは感動していた。彼は語尾に「ゲス」をつける癖がある。
その一方で、ミティは静かに体を揺らすと
美しい音色が辺りに広がる。
その岩壁によって音は反射し、周囲を包み広がっていく。
思わず聞き惚れる音色だった。

 ギルドの参謀であるノーテの考えによって、
新入りのファスは、ウィンズのリーダーであるレイと組むことになっていた。
そんなわけなので、レイは道すがら探検の話をする。
ファスは真剣に話を聞き、野生ポケモンが襲ってきた時は積極的に応戦した。
レイはファスに、自分が経験して得た戦術を教える。
探検隊ウィンズを率いるリーダーとして経験を積んだレイは、
この短期間で大きな成長を遂げていた。
自分が教える立場に回ることもできるほどに。
「片付いたでゲス」
ずつきでニドリーノをノックアウトしたファスは、レイの方を向いて言った。
「よし、いい感じだな」
レイもゴルバットを撃ち落としていた。
2匹の間では、ミティが穏やかな音を響かせている。
この音色が2匹の強さを引き出す。
「そうだ、これ食べるか?木の実を小さく切ったものなんだけど」
レイは、持っている袋から赤い粒を取り出した。
「おっ、うまそうでゲス!いただくでゲス!」
ファスは迷うことなく、レイから粒を受け取り口に放り込んだ。
しかし。
「……か……からいでゲス……」
その表情は、必死で何かをこらえている表情だった。
「あれ、辛い?僕にとってはちょうどいいんだけど」
そう言いながら、レイも粒を1個取り出して食べる。
リンゴの森にて、自分が辛党であることを思い出したレイは
探検にも辛い木の実を持ち歩くようになっていた。
「今のはフィラの実を切り出して作ったんだ。もっと辛いマトマの実もあるよ」
レイが涼しい顔をしていることが、ファスにもミティにも信じられなかった。
その時。
「からいでゲスゥゥゥゥーーーー!!!」
口いっぱいに辛さが広がったのか、ファスがついに大声を出した。
その叫び声が反射して、洞窟内に広がっていく。
こんな場所で叫んだりするとどうなるか。
答えは明確だった。
どこからともなく、ゴルバットがたくさん飛んでくる!!
「わーっ!」
ゴルバットの大群を10まんボルトで追い払いながら、レイは思っていた。
――この辛い木の実を他のポケモンにすすめることは、やめた方がよさそうだ。


 大きな音を立てて、水が流れ落ちている。
目の前に立つのは、ウィンズの副リーダー・ルナ。
いつもと違うメンバーでの探検は、彼女の提案から始まったことだった。
言いだしっぺであるルナと行動をともにするのは、
ギルドのリーダーで親方と呼ばれるフォリスと、マルグの息子であるマウタ。
「ねえ、フォリスは前にここに来たことがあるの?」
突拍子もないルナの質問。
「え?なんでそう思うの?」
屈託のない笑顔で、フォリスが聞き返す。
「私達も前にここに来たことがあるんだけど、
 レイが、もしかしたら以前ここにプクリンが来たことがあるかもしれないって」
ルナ達の行先が、ここ滝壺の洞窟であることを知ったレイが
この質問をルナに頼んでいたのだ。
「えーと……」
フォリスはしばらく悩んだ。
しかし、何かをつぶやき始めていることにルナは気づいた。
「思い出……思い出……」
突然、フォリスがその場で小さく飛び上がる。
「思い出♪思い出♪思い出-す!」
そして!

「たあーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「ひええっ!?」
「うわあ!?」
あまりに突然の叫びだったため、ルナもマウタも心臓が飛び出すほど驚いた。
勢いあまって滝に落ちてしまいそうだった。
「ああ、そういえば来たことあるかも!」
それがフォリスの答えだった。
「この滝の中には洞窟があったんだよね。思い出した!」
その答えは、ルナの、いやレイの予想通りだった。

フォリスとルナは、滝を正面から見据える。
「まずは私達が飛びこむわ」
「マウタはここで待っててね」
そう言うと、2匹は揃って滝の中に突っ込んでいった。

 2匹とも、問題なく洞窟の入り口に降り立った。
「で……」
ルナは、1個の玉を取り出して使う。
すると、滝の入り口で待機していたマウタがここに現れる。
「え?え?何が起きたんですか?」
意図せず瞬間移動をしたマウタは、何が何だかわからない。
「あつまれだまを使って、仲間をここに呼び寄せたのよ」
ルナが説明した。
「さて、確かこの洞窟には出口がたくさんあったはず。
 濃霧の森まで一気に進もう!」
フォリスが元気よく出発していく。
ルナとマウタは、その後ろを歩いていった。


 まだまだ新入りのウィンズのメンバー・ロットは、静かな川に沿って歩いている。
ギルドの参謀であるノーテと、ハイテンションなギザが一緒だ。
彼らの歩く静かな川は、道のりは長いものの危険が少ないことで知られていた。
「私がいれば心配は無用だ。先を急ぐぞ!」
このグループの先頭に立つノーテは、自信満々だった。
両脇には、どちらも元気活発なロットとギザ。
無鉄砲な3匹の集まったグループである。
しかし。
「!?」
目の前を何かが横切ったことに気づき、ノーテが足を止めた。
「あなたたちは!?」
突然、イジワルズが現れた。
「ケケケッ、なんだ、レイはいないのか?」
彼らのリーダー・ダークネスの狙いはレイのようだ。
「レイなら別行動だよ」
ロットは事もなげに言い返した。
「ゲッ……」
イジワルズの3匹にとっては予想外のことだった。
一瞬うろたえたが、気を取り直す。
「今日こそはレイを倒したかったが、いないならしょうがねえな」
ダークネスが含み笑いを浮かべる。
「手始めに、お前達をやっつけてやるぜ」
「あんた達、覚悟しなさい」
サペントが、そしてルビィが続いた。
「ヘイヘイ!オレ達が何かしたのかよ?」
ギザが割り込む。
「確かに、お前とそのペラップには直接恨みはねえ」
「だが、レイの仲間であるそのチェリンボ……確か、ロットとかいったな。
そいつは倒す意味があるな」
「というわけで巻き添えよ。かわいそうにね」
数秒だけ、会話が止まった。
「ヘーイ!」
ギザが正面から殴りかかる!
だが、ルビィが前に進み出て弾き返した。
「ヘイッ!?」
ギザはそのまま飛ばされ、ロットとノーテの目の前に落ちた。
「だ、大丈夫か!?」
ノーテが声をかける。
しかしその時、ロットはイジワルズの3匹から
邪悪なオーラが漂っていることに気づいていた。
「ケケケッ……オレらはもう昔のオレらじゃねえんだよ」
「見せてあげるわ……アタイ達の強さを!」
「そうだ!この技をくらいなっ!!!」
サペントがそう叫んだ時には、ダークネスとルビィが大きくジャンプしていた。
ダークネスは紺色、ルビィは桃色に、その手を輝かせる。
下にいるサペントは、仲間達に向けてダストシュートを撃ち込む。
2匹ともそれを受け取り、手の中の輝きはその強さを増していく!
「はああああ!!」
様々なタイプのエネルギーが、ロット達に向けて雨のように降り注いでいく。
しかし、イジワルズの攻撃はこれで終わりではなかった。
ダークネスとルビィが、一点に向けて急降下!
ロットの頭上を一直線に目指して!
「必殺!」
「ダークインパルス!!!」
次の瞬間、2匹の攻撃が同時にロットに命中し
さらに反発し合うエネルギーが、ノーテとギザを巻き込み拡散していく!
「きゃあああああ!!!」
「ぬわあああああ!!?」

 ――数十分後。
「うぐぐぐぐ……」
ノーテが、よろよろと起き上がる。
「2匹とも、大丈夫か……?」
「な、なんとか……ヘイ」
返事はギザ1匹分だけだった。
「あれ?ロット?」
ノーテが辺りを見回す。
「うう……痛い……」
ロットはまだ立ち上がれなかった。
体は傷だらけで、表情も苦しげだ。
「ヘイ、無理もないぜ……あの技の直撃をくらったんだから」
ギザが力なく言う。
ノーテは、持っていたモモンの実をロットに与える。
「うぐーっ!許せんっ!あいつら絶対とっちめてやるよ!!」
明らかに腹が立っている様子を見せる。
ギザは辺りを見回す。
「ヘイ!イジワルズのヤツら、どこにもいないぜ!」
「仕方ない。まずはベースキャンプまで急ごう。親方様や皆と合流するぞ」
ギザがロットを背負い、ノーテ達は川沿いを急いで下っていった。


 それから、しばらくして。
ウィンズとトレジャーギルド、総勢15匹にもなる一団は
濃霧の森に続々と集まってきていた。
「それはそっちだ!しっかり組み立てるぜ!」
ツノ山を越えてきたにも関わらず元気なデシベルは、
率先してベースキャンプ設営を行っている。
彼を手伝うグレアとデリック。
結局、この3匹が一番早かったのだ。
ヒーリンやファスらも、設営の作業を続けていた。
その一方では、レイとルナとイオンが集まって
所持品の整理をしている。
「にしても、ロット遅いわね……」
ルナは不安を感じていた。
「何カアッタリシナケレバヨイノダガ」
レイもイオンも、ギルドのメンバー達とともに
ここ濃霧の森に無事到着していた。
しかし、レイはここに来てから落ち着かない様子だった。
「レイ、どうしたの?」
ルナの言葉も通り抜けていく。
レイは、不思議な感覚がした。
間違いなく初めて来る場所なのに、自分はここを知っている。
気になるといえば、レイはこの近くで赤い石を見つけていた。
石はルナが持っているのだが、妙に温かい石だった。

別のテントの中では、親方のフォリスもゆっくり休んでいるところだった。
セカイイチをおいしそうにかじっている。
「ノーテ、どうしたんだろう?」
のんびり過ごしながら、ふと口にした一言。
そんな時だった。
「お、おーい……」
弱々しい声が聞こえてきた。
「あれ、ギザさんじゃないですか?」
いち早く気づいたミティが、ギザを迎える。
「ヘーイ……大変な目にあったぜ……」
彼の後ろから、疲れ果てたノーテが現れた。
傷つき、ぐったりしているロットを背負って。
「もう……ダメだ……」
そこで、ノーテの体力が尽きた。

一行は、ロットとノーテ、そしてギザをテントの中に運び込んだ。
中でもロットは特に大きなダメージを負っていた。
仲間達の持っていたアイテムによって、ある程度までは回復できたのだが。
「楽になってきたかな。ありがとう、みんな」
まだ体力は回復しきっていないが、ロットは明るく答えようとした。
「無理しないでね。まだ休んでなきゃ」
ルナがそう言うと、今度はグレアが話しかける。
「ところで、何があったんだ?」
そう聞かれたロットは、静かな川で起きたことを話した。
突然イジワルズに襲われ、彼らの放った新技によって重傷を負ったことを。
「なるほど……」
グレアは頭痛がした。イジワルズのしつこさに。
それから、今度はレイが周囲の調査結果を話した。
まだ有力な手掛かりはつかめていないが、不思議な赤い石を拾ったこと。
そして……自分が感じた、不思議な感覚のことを。
「それって、やっぱりここに記憶の手がかりがあるかもしれないってことじゃない?」
ロットはそう返した。
「だったら早く調査の続きをしな……ううっ……」
突然、傷が痛みだした。
「あっ、無理するなって」
制止しようとするレイに、ロットは話を続けた。
「それに、イジワルズの狙いはレイだよ。このままここに留まっていたら危ないと思う」
これもまた、的を射た言葉だった。

 濃霧の森の調査について、一行は相談を行った。
結果、ロットを除くウィンズのメンバー達と、
ギルドからはヒーリン、マウタ、ファスが調査に行くことになった。
残りの仲間達はベースキャンプで待機する。
メンバーが減っても、親方がいるならベースキャンプは大丈夫だと判断した上での決定だった。

濃霧の森を歩く道すがら、ヒーリンはある話をした。
「霧の湖には、ユクシーというポケモンがいると聞きましたわ。
 そのユクシーには、目を合わせた者の記憶を消してしまう力があるそうですわ。
 きゃーですわー!」
他の6匹は、その話に対して言葉を返せなかった。
記憶を消す力――という話に驚いたのだ。
「霧の湖を探検したポケモンは過去にいましたが、その探検家の話が残っていないんですわ。
 もしかしたら、これが理由なのかもしれませんわ」
だがその話を聞いて、レイは落ち着かない様子を見せた。
――自分はこの場所を知っている気がする。
そして、この先には記憶を司るポケモンがいる。
……何かある。
会いたい。ユクシーと会って話がしたい。
だが、レイは無言のままだった。
頭の中で、考えがまとまらなかった。

 歩き続けて、1時間ほどの時が過ぎた。
一行の目の前に、雲を突くような大きな岩がそびえ立っていた。
岩の上からは、水が滝のように流れている。
「あの上、どうなっているんでしょうか?」
小さな体で上を見上げ、マウタが言う。
「見えないな。霧も深いし」
レイも眼前の風景を凝視している。
目線を下に下げていく。
「……あれは?」
地上に何かを見つけた。
近づいてみると、それは何かの石像だった。
「よくわからないけど、多分ポケモンの石像でゲス」
石像を眺めながら、ファスが話す。
「こんなポケモン、俺も見たことないぜ」
その場にいる他のポケモンにとっても同じだった。
しかし、ルナが何かに気づく。
「あれ、文字が書いてある?読んでみるわ……」

グラードンの命灯しき時 空は日照り 宝の道開くなり

「た、宝の道!?」
「きっと、霧の湖にあるお宝でゲス!」
一行は、にわかにヒートアップする。
そんな中、レイは石像を見ていた。
「グラードンの命……」
そうつぶやきながら、石像に触れた。

 突然、目まいが襲ってきた。
――またか……やっぱり……

なるほど、グラードンの心臓に日照り石をはめる、それで霧は晴れるのか!
さすがだな!やっぱりオレのパートナーだ!

 今回は、声だけが聞こえてきた。
――あの声は、誰の声だったんだ……?
「レイ?」
ルナが声をかけてきて、レイは現実に引き戻された。
「あ、いや、何でもない」
しかし、レイは再び思考を巡らせる。
――日照り石……そうだ、あの温かい石か?
それをグラードンの心臓にはめる……
確か、そんな内容だった。
「ルナ。ベースキャンプで拾った赤い石、持ってるか?」
考えをまとめたレイは、ルナに問う。
「あるけど、どうしたの?」
ルナは、赤い石をレイに渡す。
――で、グラードンの心臓……
あった。この石がはまりそうな穴がある。
迷うことなく、石をはめた。
すると!
「ええっ!?」
ファスが驚いて声を上げる。
石像のはずのグラードンの……目が光ったのだ。
その光は周囲に広がっていく。

 光が収まった時、辺りを覆っていた霧は消えていた。
「な……何が起きたでゲスか……」
一行は、辺りを見回す。
目立つのは、先ほどから見えていた大岩と、そこから流れ落ちる滝くらい。
「霧の湖って、もしかしてあの上にあるのではないでしょうか?」
マウタが、誰にともなく言った。
その言葉につられて、他のポケモン達も岩の上を見上げる。
「ああ、それは考えられる」
グレアがそう言った。
「それじゃ、あなた達は先に行ってくださいですわー!」
「ボク達はギルドの皆に知らせるでゲス」
ヒーリンとファス、そしてマウタは
来た道をそのまま引き返していった。
レイ達は、戻っていく3匹を見送る。
「さて、僕達はあの岩の下でも調べてみようか」
仲間の3匹は、レイに続いて歩き出した。

 さらに数時間後。
体力を回復したロットと、ギルドのメンバー全員は
濃霧の森を抜けようとしていた。
森の方には、まだ濃い霧がかかっている。
しかし森を進んでいく途中、フォリスの道具袋から何かが落ちた。
「あっ!!!」
落ちたのはセカイイチだった。
目の前の下り坂を、ころころと転がっていく。
「待ってよー!ボクのセカイイチー!」
フォリスはわき目もふらず追いかけ始める。
「お、親方様!あまり先走ると危険です!」
後ろからノーテが、他のポケモン達も後に続く。

 すぐに、ポケモン達は霧の中から出た。
行く先にはグラードンの石像が見える。
しかし、そこに3匹のポケモンがいる。
まだまだ転がるセカイイチを、フォリスは一生懸命追いかける。
「待ってよー!」
セカイイチは転がり続け、石像のところにいるポケモンの1匹にぶつかった。
そのポケモンは……イジワルズのサペントだ。
「お?こんな所にうまそうなリンゴがあるぜ」
ルビィがセカイイチを拾い上げ、一瞬で3等分する。
そして、3匹とも一瞬で平らげた。
フォリスの目の前で。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
フォリスは限界まで口を開けた。
「ボ……ボクのセカイイチ……」
フォリスは落ち込んでいる。
「ケッ!なんだ、お前のだったのか?」
「残念、アタイ達が食べちゃったわよん♪」
「ま、せいぜいこれから気をつけるこったな」
そして、3匹同時に高笑いする。
「親方様!どうされました!?」
ノーテ達が追いついた。
ギザとロットは、フォリスの前にいるポケモンに気づく。
「ヘイ!イジワルズだぜ!」
「こんな所に!」
「お前達、タダで済むと思うなよ!」
三者三様に叫ぶ。
「ケケケッ!またやられにきたのか?」
ダークネスは、見下すように言った。
その台詞にロット達は言い返そうとした。が、できなかった。
目の前にいる風船ポケモンが、ただならぬオーラを発していることに気づいたのだ。
「許さない……」
フォリスが、不気味なほど静かにつぶやいた。
「ケッ!許さない?だからなんだっていうんだ?」
ダークネスは余裕を見せる。
しかし、フォリスが放つオーラは強くなる一方だった。
「キミたち……ボクのセカイイチ食べた……許さない……」
フォリスの目は、暗い色に輝いている。
さらに、辺りに地響きの音が広がる。
「おい……ヤバくないか?」
サペントの顔から汗が流れる。
ここで初めて、イジワルズの3匹の表情に恐れが浮かんだのだ。
「キミたち……ボクのともだち傷つけた……許さない……」
地響きの音が大きくなっていく。
ノーテ達はもちろん、イジワルズさえ全く動くことができない。
フォリスの気迫があまりにすごくて、釘づけになっているのだ。
「許さない……ゆるさない……ぜったい……ゆるさない……」
――来る。
ノーテは本能で察知した。
次の瞬間に起こるであろう事態に備え、両の羽で耳をふさぐ。
そして、それは予想通り来た!

「たあーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 数十秒後、イジワルズの3匹はその場に転がっていた。
ぴくぴくと動いている。
フォリスは、ダークネスの道具袋から
セカイイチが転がっていることに気づく。
「これはもらっていくよ」
セカイイチを1個残らず、自分の道具袋に入れていく。
すぐに全部入れ終わる。
そして、仲間達に向き直って言った。
「さっ!みんな、行こう!」
フォリスは満面の笑顔を振りまきながら、楽しげに歩いていく。
「ルルルン♪ルンルン♪ルルルン♪ルンルン♪」
そんなフォリスの後姿を見ながら、ロットはひとつ決心をしていた。
――この親方だけは、絶対に敵に回すまい。




Mission11。探検隊の遠征・前編です。
原作ではChapter7~8の内容。2つまとめたので長い話になりました。
3回連続の2桁ページで、またしても最長記録を更新。
ギルドの集団はやたらとメンツが濃いので、書いてて楽しかった話。

2008.05.07 wrote
2008.06.11 updated



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